『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステイン主演の社会派映画『女神の見えざる手』のレビュー。
紹介
女神の見えざる手のストーリー
エリザベス・スローンは政界では一目置かれた敏腕ロビイスト。
彼女は銃規制法案を成立させることに心血を注ぐが、それは自分よりも遥かに強いパワーを持つライフル業界と戦うことを意味していた。
エリザベスは少数精鋭の仲間たちと共に、巨大なライフル業界を相手にした政治ゲームを展開していく。
女神の見えざる手の出演陣
役者 | 役名 |
ジェシカ・チャステイン | エリザベス |
マーク・ストロング | ロドルフォ |
ググ・バサ=ロー | エズメ |
アリソン・ピル | ジェーン |
マイケル・スタールバーグ | パット など |
感想
民主主義の寄生虫は誰?
この映画はジェシカ・チャステイン演じる敏腕ロビイスト・エリザベスが、銃規制法案を巡る政治ゲームに身を投じて暗躍する姿を描く社会派作品。
映画はエリザベスが公聴会で証言する内容を復習している場面から始まる。
彼女は自身のロビー活動について公聴会で証言することになっており、下院議員やマスコミは”世論を巧みに誘導する”彼女の活動に厳しい視線を向けていた。
その後、話は約3ヶ月前まで遡り、エリザベスが銃規制法案に興味を示したことから始まり、そして公聴会出席で終わる一連の出来事を振り返っていく。
終わってみれば一連の出来事は、ロビー活動を─
ロビー活動は予見すること。
敵の行動を予測して、対抗策を考えること。
と考える彼女が巧みに仕掛けた罠であり、最後の一撃も─
勝者は敵の一歩先を読んで計画し、自分の手を見せるのは敵が切り札を使ったあと。
相手の不意を突くことはしても、自分は突かれないこと。
という彼女の戦い方をそのまま繰り出した形だった。
そして、最後に映画は再び冒頭のシーンに戻って来る。
第一印象ではエリザベスこそ”民主主義の寄生虫”という印象を受けたが、これまでのお話を見ていると、この委員会こそがその”寄生虫”によって開かれた茶番だったと分かる。
したり顔でエリザベスを追及していた議員は、ロビイストに圧力を掛けられた結果、この委員会を開催したに過ぎず、エリザベスの席に座っていてもおかしくない人物だった。
相手が切り札を使い切った後、エリザベスの反撃が始まる。
“自分を押し殺してどん欲に勝ちを追い求めた彼女の苦労”が実るクライマックスは、間違いなくこの映画最大の見せ場になっており、”毒をもって毒を制す”エリザベスの一撃は痛快だった。
さらに映画では、一連の出来事を描く中で”民主主義の病巣”についても描かれる。
莫大な資金力を持つ個人や団体に雇われたロビイストに議員がコマのように扱われている事実や、純粋に国を思い行動する議員が冷や飯を食わされる現実が描かれており、民主主義の実態が垣間見える。
個人的には”世論は過大評価されている”という話が興味深かった。
世論調査での銃規制賛成は過半数を超えているが、実際に投票でそれを示す国民はそこまで多くないので、結果的に銃規制反対派が勝利する。
よって重要なのは世論ではなく、支持層を固めることだという。
…
この映画ではエリザベスの策略をスリリングに描く一方で、ギトギトした民主主義の実態も映し出しており、社会派サスペンスとして非常にクォリティの高い作品だった。
ミス・スローン
主人公・エリザベスは”映画における女性像”とは真逆のキャラクターだった。
女性主人公でワーカーホリック(仕事中毒)や徹底したドライさを持ったキャラクターはあまり見かけないし、”女が男を買う”という立場の逆転も目新しく感じた。
また、スローガンを─
子供を銃で奪われた母親から、銃で子供を守る母親に。銃に怯える虐待された妻から暴力を振るう夫から銃で身を守る妻に。
と変えるだけで”女性票が取り込めるという考え”の根底にある差別意識が露呈するシーンも印象に残った。
まとめ
見応えのある社会派サスペンス映画だった。
一連の政治ゲームもさることながら、エリザベス本人の内面にも迫るストーリーも面白く、ジェシカ・チャステインの演技力にも魅了された。