原題 | Fargo |
公開日 | 1996年3月8日 |
ストーリー | 多額の借金を抱えたジェリーは”妻の誘拐事件を偽装”し、勤め先の社長であり、義父から身代金を奪おうとする。 |
フランシス・マクドーマンド主演のクライム映画『ファーゴ』のレビュー。
ファーゴの感想/評価
平穏な日常が一変する
豪雪の田舎町を舞台で繰り広げられるこの映画では、ちょっとした出来心によって平穏な日常を失った男の転落劇が描かれます。
確かに「妻の誘拐を偽装し、身代金を騙し取る」という計画はぶっ飛んでいますが、その動機は家庭や職場での立場にあり、意外と等身大のお話でした。
まず、事件を計画したジェリーの一家は”男は外で働き、女は家事や育児に専念する”というお家であり、それぞれが昔ながらの役割を担っていました。
しかし、ジェリーは一家の主でありながらも、実権は義父・ウェイドが握っており、何かあればジェリー抜きでも一家を養える財力と権力を持っていました。
「一家の主なのに、実際は義父に支配されている」という役割と現実のギャップにジェリーは苦慮しており、それが映画で描かれる騒動へと発展していくわけです。
対して、主人公・マージの一家は”女は外で働き、男は家事(+創作)に専念する”というお家であり、それぞれが自ら選択した役割を担っていました。
一見、マージの夫・ノームはトロく見えるわけですが、ジェリーとは違って自分の性格や特性を理解した上で今の生き方を選んでいるので、ものすごく自然体。
この点はマージも同様です。
この映画では、「誘拐事件」を通して日々の営みの中で積もる不満や怒りの行く末を映し出し、その果てに凶行に打って出た男の転落劇を皮肉なジョークたっぷりに描きます。
個人的にはまるで”真綿で首を絞める”ようにジェリーを追い詰めていくマージと、マイク・ヤナギダの件で「真人間に見えても裏がある」と察する彼女のスマートさが気に入りました。
自分が物事をコントロールすること
自分が物事をコントロールすることが大切なのだと。
ジェリーは妻の誘拐を”丸投げ”するわけですが、この時点で主導権はジェリーではなく、実行犯のカールとゲアに移ってしまいます。
投資の話にしても、ジェリーはわざわざ義父・ウェイドに相談し、ここでも主導権を奪われてしまい、挙句の果てにジェリー抜きで話を進められる。
一方、ウェイドは”自分がコントロールする”ことの重要さを理解しているので、身代金の額を交渉しようとしたり、身代金の受け渡しに自ら行こうとしたりし、相手のペースで進んでいる物事をこちら側に引き戻そうとする。
逆に、カールはゲアが場をコントロールしていることに気づけず、立場を逸脱して分け前の交渉をしてしまったことで、結果的にミンチにされてしまう…。
ゲアは”沈黙の男”でしたが、凶暴性がモノを言うあの空間では彼が支配者であり、最初にゲアが警官を殺し、その際にカールがビビった時に立場は決まりました。
この映画ではある男の転落劇を描く一方で─
- 自分が物事をコントロールすること
- 常に自分の立ち位置を把握しておくこと
の大切さを説き、それが出来ない者が辿る末路を冷たく描きます。
まとめ
「誘拐事件」に端を発する騒動を皮肉的に描いた一作でした。
ちょっとした出来心によって下り坂を転がり落ちていく男を、皮肉と悲壮感たっぷりに描いており、冷気が体温を奪っていく鋭い感覚がひしひしと伝わって来る映画でした。