原題 | Arrival |
公開日 | 2016年11月11日 |
エイミー・アダムス主演のSF映画『メッセージ』のレビュー。
メッセージの感想/評価
原作に着想を得た実写化
短編小説『あなたの人生の物語』を原作とする本作は、原作の物語をハリウッドのフィルターを通して描いた大作映画でした。
意外にも、原作『あなたの人生の物語』との相違点は多く─
- 映画版は人類の対立が描かれる
- ヘプタポッドに明確な目的がある
- 巨大スクリーンを介してやり取りする
- 原作の学術的、専門的な描写はカットされている
など、割りと変更点の多い実写化になっており、“忠実な実写化というよりも着想を得た実写化”と言った方がニュアンス的に正しいように思えます。
しかし、「ダメな映画化か?」と言われると全くそうではなく、逆に映画ならではのビジュアルとサウンドをもって原作の世界観を見事に再現しており、ヘプタポッドやシェル(ルッキンググラス)の存在感に圧倒されます。
特にサウンドは「アカデミー賞」「英国アカデミー賞」で”音響賞”を受賞しているだけあり、シェルやヘプタポッドの異質さを音響効果で見事に表現しています。
改変されたストーリーに関しても、対立構造は映画全体に緊張感をもたらしますし、すぐに対立する人類の危うさも、ヘプタポッドの言語の価値を強調します。
確かに原作ファンの不満も理解できますが、ほとんどの変更点は良い方向に作用しているので、大作映画として正しい変更だったように思います。
ルイーズを通して私の人生を考える
最終的に主人公・ルイーズはヘプタポッドの言語を習得し、過去、現在、未来を同時に見る能力を発達させるわけですが、これは彼女の人生観を一変させる。
(原作と同じであれば)ルイーズは”ヘプタポッドとの接触から彼女が死ぬまでの人生”を同時に把握できるようになり、後に夫と離婚することも、愛娘を失うことも知ってしまう。
『メッセージ』の考察記事にも書いたように、ルイーズの未来は確定したものであり、”未来を知ってしまった”からと言って何かを変えることはできません。
自分の結末も、相手の結末も知った上で人生を歩んでいく。
しかし、未来を知るということは救いでもあります。
娘・ハンナの人生が(おそらく)十代で終わることを知ったからこそ、ルイーズは娘に伝えるべき言葉を伝え、愛情をたっぷり注ぐことができましたし、より注意深く彼女を見守ることができました。
とは言っても、娘の元気な姿を目に焼き付けようとするルイーズの優しい眼差しと、避けられない結末に絶望する彼女の表情には胸が締め付けられますが。
ルイーズ「人生の始まりから終わりまでを分かったとして、変えたいと思う?」
イアン「もしかしたら自分の気持ちをもっと伝えるようになるかも」
お話自体は突如出現したエイリアンとの対話から始まりますが、最終的にはルイーズ自身のパーソナルな話に帰結し、彼女を通して観客にも問いを投げかけます。
確定した未来を知ってしまった時、「私はどう生きるだろうか」「今とはどう違う生き方をするだろうか」「それを受け入れられるだろうか」。
“壮大なSF映画”にもかかわる、終わってみればルイーズを通して描かれる人生についての物語になっており、原作の良さがきちんと反映されていました。
まとめ
奥深く、味わい深いSF映画でした。
確かに多くの点において原作とは異なりますが、原作の難解な世界観を視覚効果を駆使して見事に再現しており、脚色されたストーリーにも原作のエッセンスは残されています。
原作『あなたの物語の物語』同様に、この実写版も何度も観て理解を深めたくなる作品になっており、二度、三度観ても毎回新しい発見があります。
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