ベン・アフレック主演のスリラー・ミステリー映画『ゴーン・ガール』のレビュー。
紹介
ゴーン・ガールのストーリー
破綻した結婚生活を続けて来たニックとエイミー。
ある日、ニックが自宅に帰るとエイミーの姿はなく、室内には何やら荒らされた痕が残されていた。
ニックは周囲のサポートを得ながら姿を消した妻・エイミーを捜索する。
ゴーン・ガールの出演陣
役者 | 役名 |
ベン・アフレック | ニック |
ロザムンド・パイク | エイミー |
ニール・パトリック・ハリス | デジー |
タイラー・ペリー | タナー |
キャリー・クーン | マーゴ など |
感想
自作自演の事件で、憎き夫を破滅させる
ロザムンド・パイク演じるエイミーは、両親が執筆したベストセラー本「アメイジング・エイミー」のモデルだったことで、常にそのイメージに縛られて生きて来ました。
というのも、「アメイジング・エイミー」はエイミー自身をモデルにしたお話でしたが、その中身は過度に美化されており、「アメイジング・エイミー」は”いつも本物の先を行く”存在だったからです。
(「アメイジング・エイミー」があれだけ熱烈に歓迎された背景には、その本のお話がアメリカ人が理想とする子供の姿を描いていたからなのかも知れません)
そんなエイミーは、あるパーティーで夫となるニックと出会います。
ニックはニューヨークで男性雑誌のライターをしているということで、女性の口説き方や接し方を心得ており、見事にエイミーのハートを射止めます。
エイミーにとっては、ようやく「アメイジング・エイミー」と肩を並べることができたわけなので、この幸せを逃すことなんて絶対にしたくありません。
しかし、次第にニックの化けの皮が剥がれてきます。
彼が失業し、家庭内でのエイミーとの力関係に変化した辺りから─
- 嘘つき
- ぐうたら
- 暴力的
という彼の本性がむき出しになり、おまけに浮気までします。
そして、彼の言動はエイミーの自尊心 威厳 希望 お金を奪いました。
普通、ここまで来れば「離婚」が妥当な選択ですが、エイミーにとっては「アメイジング・エイミーは幸せなのに、リアル・エイミーは離婚した」なんて惨めな思いはしたくありません。
(アメイジング・エイミーには、十分に惨めな思いをさせられて来たので余計に)
恐ろしいことに、エイミーは離婚して惨めな結末を迎えるよりも、夫に殺された悲劇の妻を演じることを選び、憎きニックを巧みにワナへと誘い込むことに。
エイミーによって、ニックは少しずつ”アメリカ人が理想とする子供を裏切り、殺した男”に仕立て上げられてゆき、一方でエイミーには同情が集まります。
最終的にエイミーはニックのもとに戻って来ます。
ただ、もう以前のニックとエイミーの関係ではありません。
世間がエイミーを悲劇のヒロインとしたことで、ニックは彼女と離婚することができなくなり、かつエイミーの本性を思い知った以上、もう反抗することもできません。
さらに、エイミーはニックの子供を身ごもっていました。
傍から見ればこれまで以上に家族の結束が強くなったように見えますが、実際は歪な力関係の上に成り立っているだけに過ぎません。
(↑自体は他の家庭でも見られる状態だと思います)
当初の計画は頓挫したものの、最終的にエイミーは理想の家庭を再び手にすることができました。
もしかすると、エイミーが見上げた先にあったのはニックの顔ではなく、ニックの目に映るアメイジング・エイミー(=自分)の姿だったのかも知れません。
…という日常に潜むサイコ・スリラーなお話が恐ろしい。
この映画で描かれる“夫に裏切られた”妻の復讐劇は非常に恐ろしく、かつ”自分の理想を奪った夫を破滅させてやる”という妻の異常な怒りに背筋が凍ります。
また、妻が死ぬその時まで逃げることが許されない現実も、夫の自業自得とは言えドス黒い余韻を残す結末です。
この映画は美しくも危険なサイコ・スリラーになっており、エイミーを演じるロザムンド・パイクの冷たい表情が頭から離れません。
メディアと警察
他人の家庭を面白おかしく報道するメディアと、それに群がるイナゴたち。
また、無実のニックを犯人として捜査した手前、早く幕引きを図るために数々の疑惑を残したまま事件解決とする警察とFIB。
こっちもこっちでそれなりに狂っています。
まとめ
非常に見応えあるサイコ・スリラー作品でした。
ロザムンド・パイクの冷徹さを感じる演技と、ベン・アフレックのとことん苛立ちを感じさせる演技が素晴らしく、二人の周りを固める俳優たちも同様です。
私にとっては何度も観て理解を深めたい作品です。