【感想・評価】『ある過去の行方(ネタバレ)』レビュー

ドラマ映画のレビュー
原題 The Past
公開日 2013年5月17日

ベレニス・ベジョ主演のフランス映画『ある過去の行方』のレビュー。

ある過去の行方の感想/評価

過去を精算せずに生きること

『ある過去の行方』にてベレニス・ベジョ演じる主人公・マリー。前夫アフマドを空港で出迎えるシーン。

“ある過去”に翻弄される家族の姿を描いた一作。

「今」が過去の積み重ねの上に成り立っている以上、過去を精算できていないと自ずと「今」は苦しいものになります。

4年前に家族を捨てた「過去」があるアフマドは、離婚手続きのために家族のもとに帰って来るわけですが、前妻・マリーは再婚相手の存在と妊娠している事実をもって彼に仕返しする。

また、マリーの長女・リュシーはたった十数年の間に父親が次々と代わったことを快く思っておらず、やはりそれも精算できていないので親子関係がギクシャクしている。

冒頭の空港のシーンが象徴しているように、この映画では「こんな近くにいるのに本音で話せない」という家族の内情を生々しく描写しており、まるで他所のお家を覗き見しているような現実感を覚えます。

『ある過去の行方』にてアフマドと娘・リュシーがサミールの妻が自殺を図った原因を知るシーン。

そして、リュシーの告白によって物語は核心に迫り、”サミールの妻が自殺未遂を図ったきっかけがリュシーにある”ことが判明します。

父親が次々と代わった過去、マリーの異性関係に振り回されて来た過去、マリー自身も男に翻弄されて来た過去などが問題として一気に表面化する。

しかし、リュシーが引き起こした悲劇を機に、彼らは怒鳴り合い、憎しみ合いながらも、その中で各々の胸の内を明かし、ようやく過去と向き合っていきます。

“過去を精算せずに生きることの苦しさ”を知っているアフマドは、リュシーに秘密を明かすことを迫るわけですが、結果的にそれは全員を正しい道へと導くわけです。

実はアフマドは誰とも血縁関係にない

マリーの娘たちは最初の夫の子供であり、実はアフマドと血が繋がっていない。

しかし、娘たちはアフマドに懐いており、リュシーも彼には心を開く。

アフマドと娘たちの関係は”血の繋がりを乗り越えた親と子の絆”を感じさせるものであり、家族のあり方を問う作品でもありました。

この映画では、とある壊れた家族の再生を丹念に描いており、生々しい人物描写と激しい展開のおかげで最後まで目が離せません。

親がフラフラしていると子供は大変

『ある過去の行方』にてマリーとアフマドが争うシーン。リュシーの告白を聞き、マリーはもう我慢ならない。

親の不甲斐なさや責任感のなさはそのまま子供に降り掛かって来るわけで、親がフラフラしていると子供は本当に大変な思いをする。

この映画でも、”マリーとその前夫たちに振り回される”娘たちという形で描かれており、大人たちに振り回される子供に同情せずにはいられません。

(ただ、マリーの激しい言動は”家事と育児を一手に担っている”しんどさを考えると十分に理解できますが)

まとめ

様々な感情が渦巻くヒューマン・ドラマでした。

丹念な人物描写と二転三転するストーリーをもって、壊れた家族の再生を見事に描ききっており、家族のあり方と家族として生きることを考えさせる一作でした。