【感想・評価】『タリーと私の秘密の時間(ネタバレ)』レビュー

ドラマ映画のレビュー
原題 Tully
公開日 2018年5月4日
ストーリー 三人目の子供を出産した主人公・マーロ。

まだ幼い二人の子供を相手にしながら、赤ちゃんの世話までする彼女は、疲労困憊でパンクする。

そんな時、兄が教えてくれた”ナイトシッター”のことを思い出し、マーロは藁にもすがる思いで依頼する。

そして、マーロのもとにタリーという名の若いシッターがやってくる。

シャーリーズ・セロン主演のドラマ映画『タリーと私の秘密の時間』のレビュー。

タリーと私の秘密の時間の感想/評価

妊娠、出産を経て変化する心境と母親の孤立を描いた一作でした。

確かに夫は仕事に打ち込み、子供の面倒は見てくれるけれど、しんどい部分は全て主人公・マーロに押し付けてしまっており、悪気なく「冷凍ピザか、最高」なんて言ってしまう。

男は(主語デカ)自分の母親が”親としてやってくれた”ことを当たり前に思ってしまう節があって、ドリューも妻であるマーロに無意識にそれを求めてしまっていた模様。

ドリューがマーロに「君は完璧だと思っていた」と言うけれど、それは自分の母親のイメージをそのままマーロに当て嵌めてしまっていたことの告白なのだと私は理解しました。

当然、マーロからすれば”知ったこっちゃない”わけで、育児と主婦業を押し付けられたことで、精神状態は悪化し、パンクしてしまう。

この映画では、少しずつ周囲から孤立し、一人でストレスを抱え込んで苦しむ母親を丁寧に描いており、シャーリーズ・セロンの演技も相まって作り物とは思えない本物感がありました。

夫のドリューも、”大切な我が子を預ける”ナイトシッターの存在さえも知らないくらい無関心でしたが、この無関心さ、鈍感さも実にリアルでした。

さて、謎多きタリーは”マーロの空想上のナイトシッターでした”。

久しぶりに再会した友人は身なりの良い格好をしているのに、自分は”主婦業”に余力を全て奪われてしまってカフェに辿り着くので精一杯で、ヨレヨレ。

育児の悩みを打ち明ける相手もおらず、夫もイクメンとは程遠い…。

その結果、マーロの内面はボロボロになってしまいますが、タリーはそんなマーロを肯定的に受け入れてくれて、傷ついた自尊心も癒やしてくれます。

一見、マーロとタリーのやり取りは非常にポジティブに見えますが、実は”心に空いた穴を空想上の友達で埋めている”わけなので、結構深刻。

マーロの気分の変化も、傍から見れば躁と鬱の繰り返しに見えますし。

しかし、“タリーと私の秘密の時間”はマーロにとって一種のカウンセリングになっており、自分自身を見つめ直し、自分にとっての幸せを再認識するきっかけになりました。

終盤、マーロが水中から這い上がるシーンは母親の子宮から生まれてくる赤ん坊のようであり、自分の力で這い上がってくる力強さにマーロの心境の変化が伺えます。

まとめ

ユーモアさと痛烈なメッセージを両立させた良作。

親として求められる姿と現実とのギャップに苦しむ母親の心境を丹念に描いており、周囲の無関心さと無言のプレッシャーに押し潰されるマーロに同情する。

「ドリューにとってやや都合が良すぎる」ように感じるけれど、ハッピーエンド的な結末は鑑賞後に良い余韻を残します。