ジェフ・ダニエルズ主演のヒューマン・ドラマ『イカとクジラ』のレビュー。
紹介
イカとクジラのストーリー
ありふれた中流家庭。
しかし、両親が離婚することになり、子供たちにとっての当たり前は崩れ去り、心の拠り所としての家庭を失ったことで子供たちは戸惑う。
イカとクジラの出演陣
役者 | 役名 |
ジェフ・ダニエルズ | バーナード |
ローラ・リニー | ジョーン |
ジェシー・アイゼンバーグ | ウォルト |
オーウェン・クライン | フランク |
ウィリアム・ボールドウィン | アイヴァン など |
感想
リアルすぎて不快
今のところ、私の両親は離婚していませんが、仮に思春期の頃に離婚していたら「どう受け止めて良いのか」が分からずに混乱したと思います。
当然、離婚すると父親と母親は”子持ちの独身”になり、自由に恋愛できるようになるわけですが、それをまざまざと見せつけられるのは子供にとってキツイ。
父親が、母親が見知らぬ異性と付き合っている様子をすんなり受け入れられる子供は一体どれくらいいるでしょうか?両親が別々に暮らしているだけでも受け入れることが難しいのに。
そして、この映画に登場する両親は”子供の不安”に鈍感。
母親は息子のテニスのコーチと付き合うし、父親は長男と年の差がほとんどない生徒と付き合うし。
また、子供への愛情は感じるものの、居場所を求めてやった来た我が子に対して「今日はパパの日でしょ?」と言ったり。
母親に助けを求めに来たのに、彼氏(コーチ)とのデートを優先されるの辛すぎ…。
確かに、その鈍感さはリアルな人間っぽさなのですが、同時にそれによって我が子の居場所が無くなっていることに気付かない彼らに苛立ちを覚えるし、不快に感じる。
あと、無意識に妻を支配し、彼女の成功を妬む父親や、息子の前で他の男の話をする無神経な母親もしんどくて、この子たちは大変だなという気にさせる。
(それも人間っぽい部分ではあるのですが)
この映画で描かれる家族は非常にリアルで、映画的な着色がほぼされていないからこそ、家庭内の描写が生々しく、ドシッと腹に来ます。
モラハラ夫
今で言えばモラハラ夫。
夫・バーナードは、明らかに妻・ジョーンを下に見ており、彼女の仕事や言動を否定することで家庭内での自らの立ち位置を誇示します。
また、バーナードは”ジョーンが作家として売れる”ことを自分のおかげのように言いますし、彼女の不倫をチラつかせることで主導権は自分にあると暗に示します。
おそらく、妻にとって不倫は抑圧的な生活のはけ口であり、”不倫の証拠をわざと夫の見えるところに置いた”のも、そんな夫への復讐だったのでしょう。
この映画は、夫の無自覚なモラハラもリアルに描いており、こっちに関してもリアルすぎて不快(褒め言葉)。
まとめ
二度目ですが、リアルすぎて不快な映画でした。
もちろん、”不快”は褒め言葉で、映画としては繊細な脚本と細かな演技(演出)が素晴らしく、両親の離婚に翻弄される子供たちの苦悩がストレートに伝わって来る作品でした。
ノア・バームバック監督の半自叙伝ということで、この生々しさも納得です。